― 言葉を訳すだけでは終わらない重い仕事 ―
司法通訳の仕事は、単に外国語を日本語に訳す仕事ではありません。
刑事事件の現場では、通訳人は長時間拘束されることがあります。
警察署での取調べ、検察庁での聴取、弁護士との接見、裁判所での公判など、必要とされる場面は多岐にわたります。
しかも、事件は予定どおりに進むとは限りません。
取調べが長引くこともあります。
待機時間が発生することもあります。
法廷で予定時間より審理が延びることもあります。
遠方の警察署や裁判所に呼ばれることもあります。
通訳人は、その時間を拘束されながら、常に集中力を保たなければなりません。
司法通訳が扱う内容は、日常会話ではありません。
窃盗、傷害、薬物、詐欺、性犯罪、家庭内暴力、入管法違反など、重い内容を聞き続けることがあります。
被害者の苦しみ、被疑者の不安、家族の事情、生活困窮、差別、孤独。
そうした内容に長時間向き合うこともあります。
通訳人は感情を出さず、中立的に訳さなければなりません。
しかし、人間である以上、精神的な負担がまったくないはずはありません。
特に難しいのは、本人の言葉をそのまま訳さなければならない点です。
たとえ通訳人が個人的に不快に感じる内容であっても、
たとえ感情的に重い内容であっても、
通訳人は自分の判断を加えず、正確に伝える必要があります。
これは非常に大きな精神的負担です。
さらに、司法通訳には高い正確性が求められます。
一つの言葉の違いが、供述の意味を変えてしまうことがあります。
一つの表現の違いが、裁判官や検察官、弁護士の受け止め方に影響することもあります。
「やりました」なのか。
「やったかもしれません」なのか。
「覚えていません」なのか。
「分かりません」なのか。
この違いを正確に訳すためには、語学力だけでなく、法律用語や刑事手続きへの理解も必要です。
しかし、通訳人の負担に見合うだけの十分な制度や支援があるのかという点は、まだ社会であまり議論されていません。
通訳人が不足する背景には、報酬だけでなく、拘束時間の長さ、精神的負担、責任の重さ、身元が知られる不安など、さまざまな要因があります。
司法通訳がいなければ、外国人は自分の権利を理解できません。
一方で、通訳人自身が過度な負担を抱えたままでは、質の高い通訳を継続することは難しくなります。
司法通訳を増やすためには、単に「語学ができる人を登録すればよい」という話ではありません。
- 拘束時間への配慮。
- 精神的負担への理解。
- 適切な報酬。
- 研修制度。
- 守秘義務や安全面の支援。
こうした仕組みが必要です。
司法通訳は、刑事手続きの影にいる存在です。
しかし、その役割はとても大きい。
通訳人が安心して働ける環境を整えることは、外国人のためだけではありません。
日本の司法の正確性と信頼を守るためにも必要なことなのです。


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