外国人事件で必要になる司法通訳には、大きく分けて三つの場面があります。
- 警察や検察の取調べで必要になる「捜査通訳」。
- 裁判所の法廷で必要になる「法廷通訳」。
- 弁護士との接見や打合せで必要になる「弁護通訳」です。
同じ通訳であっても、この三つは役割も立場も大きく違います。
まず、捜査通訳です。
捜査通訳は、警察や検察の取調べの場面で使われます。
外国人の被疑者や参考人が日本語を十分に理解できない場合、捜査官の質問を本人に伝え、本人の答えを捜査官に伝える役割を担います。
この場面で特に重要なのは、本人が何を聞かれているのかを正確に理解できるかどうかです。
たとえば、
「認めますか」
「否認しますか」
「黙秘権があります」
「この供述調書に間違いはありませんか」
という言葉は、刑事手続きの中で非常に重い意味を持ちます。
もし通訳が不十分であれば、本人が十分に理解しないまま供述してしまう危険があります。
そして、その供述が後の裁判で重要な証拠になることもあります。
つまり、捜査通訳は、事件の初期段階で本人の人生を大きく左右する可能性がある通訳です。
次に、法廷通訳です。
法廷通訳は、裁判所の法廷で行われる通訳です。
裁判官、検察官、弁護人、証人、被告人の発言を、正確に通訳する役割を担います。
法廷では、すでに起訴された事件について、証拠や証言をもとに審理が進みます。
ここでの通訳は、単に会話をつなぐものではありません。裁判の内容を被告人が理解し、自分の言い分を述べるための重要な手段です。
裁判所の資料でも、法廷通訳人は、日本語が分からない被告人や証人と、裁判官・検察官・弁護人との間をつなぐ存在とされています。
法廷通訳には、法律用語、裁判手続き、証言のニュアンスを正確に理解する力が必要です。
一つの言葉の違いが、印象や判断に影響することもあります。
たとえば、
「見た」
「見たと思う」
「見たかもしれない」
この三つは、日本語では似ていても、証言としての重みはまったく違います。
この微妙な違いを正確に伝えることが、法廷通訳には求められます。
そして三つ目が、弁護通訳です。
弁護通訳は、弁護士と外国人被疑者・被告人との間に入る通訳です。
逮捕後の接見、裁判前の打合せ、証拠の説明、今後の方針確認などで必要になります。
この弁護通訳は、非常に重要でありながら、一般にはあまり知られていません。
なぜなら、外国人が自分の言い分を弁護士に正確に伝えられなければ、十分な弁護活動ができないからです。
「本当はやっていない」
「その場にはいたが関与していない」
「日本語が分からず、意味を理解しないまま署名した」
「警察で言った内容と調書の内容が違う」
こうした事情は、本人と弁護士が十分に意思疎通できなければ、裁判で主張することも難しくなります。
弁護通訳は、単なる言葉の橋渡しではありません。
本人の防御権を支える重要な役割を担っています。
ここで大切なのは、三つの通訳がそれぞれ異なる立場にあるということです。
捜査通訳は、警察や検察の取調べの場に入ります。
法廷通訳は、裁判所の法廷で中立的に通訳します。
弁護通訳は、弁護士と本人の意思疎通を支えます。
どの通訳も正確性が求められますが、置かれている場面が違うため、注意すべき点も違います。
特に問題になるのは、同じ通訳人が複数の場面に関わる場合です。
たとえば、捜査段階で取調べに関わった通訳人が、その後の法廷でも通訳を担当した場合、本人から見れば「警察側にいた人が、今度は法廷にいる」と感じるかもしれません。
通訳人本人にそのつもりがなくても、被疑者・被告人が不安や不信感を持つ可能性があります。
司法通訳にとって大切なのは、正確に訳す力だけではありません。
中立性、公平性、守秘義務、そして人権への理解が必要です。
外国人事件では、言葉の壁があるだけで、本人は圧倒的に不利な立場に置かれます。
その壁を低くするのが司法通訳の役割です。
しかし、捜査通訳・法廷通訳・弁護通訳の違いが社会で十分に理解されているとは言えません。
外国人事件を考えるとき、私たちは「外国人が何をしたのか」だけを見るのではなく、
その人が本当に手続きを理解できていたのか、
自分の言い分を正確に伝えられたのか、
弁護士と十分に話し合う機会があったのか、
という視点を持つ必要があります。
司法通訳は、外国人を特別扱いする制度ではありません。
日本語が分からない人にも、同じように権利を保障するための制度です。
そして、誤った判断を防ぎ、日本の司法の信頼を守るための大切な仕組みなのです。
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