― 少数コミュニティの中で通訳するという現実 ―
司法通訳の問題を考えるとき、どうしても「通訳人が足りない」「言語が足りない」という話に目が向きがちです。
しかし、もう一つ大きな問題があります。
それは、通訳人の身の安全です。
刑事事件の通訳では、通訳人は被疑者や被告人の供述、被害者の話、事件の詳細、関係者の名前など、非常に機微な情報に触れることがあります。
特に外国人事件では、同じ国や地域の人同士が、狭いコミュニティの中で生活している場合があります。
少数言語であればあるほど、「誰が通訳したのか」が推測されやすくなります。
通訳人本人に何の落ち度がなくても、事件関係者や周囲の人から、
「警察に協力した人」
「自分たちの仲間を不利にした人」
と誤解される可能性があります。
これは非常に深刻な問題です。
司法通訳は、警察側の味方でも、被疑者側の味方でもありません。
本来は、中立の立場で言葉を正確に伝える役割です。
しかし、事件に関わった人たちから見れば、その中立性が正しく理解されないこともあります。
特に同じ国籍、同じ言語、同じ地域社会の中で生活している場合、通訳人の心理的負担は大きくなります。
「あとで顔を知られないか」
「家族に影響が出ないか」
「同じコミュニティで噂にならないか」
「報復や嫌がらせを受けないか」
こうした不安があれば、司法通訳を引き受ける人は減っていきます。
通訳人不足の背景には、語学力の問題だけではなく、こうした安全面の不安もあるはずです。
また、外国人コミュニティの中では、情報が思った以上に早く広がることがあります。
SNSやメッセージアプリを通じて、事件や関係者の情報が共有されることもあります。
その中で通訳人の存在が知られれば、本人の生活に影響が出る可能性があります。
司法通訳人を確保するためには、報酬や研修だけでは不十分です。
通訳人の個人情報をどう守るのか。
身元が不必要に知られない仕組みをどう作るのか。
危険や不安を感じた場合に相談できる窓口があるのか。
こうした点も考える必要があります。
通訳人は、外国人の権利を守るために必要な存在です。
しかし、その通訳人自身が守られていなければ、制度は成り立ちません。
司法通訳の安全を守ることは、通訳人個人を守るだけではありません。
必要なときに通訳人を確保し、公正な手続きを維持するためにも必要です。
司法通訳は、見えないところで司法を支える存在です。
その人たちが安心して役割を果たせる環境を整えることも、日本の司法に求められている課題なのです。


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