少数言語の通訳人不足

ー老害からの老賢ー
外国人事件で深刻なのが、少数言語の通訳人不足です。

日本で暮らす外国人は多様化しています。

ベトナム語、ネパール語、ミャンマー語、シンハラ語、クメール語、ベンガル語、インドネシア語など、必要な言語は広がっています。

しかし、外国語ができる人と、司法通訳ができる人は同じではありません。

言葉が通じなければ、真実にもたどり着けない

少数言語の司法通訳不足

外国人が関係する事件が起きたとき、捜査や裁判を支える重要な存在が司法通訳人です。

英語、中国語、韓国語などは、比較的通訳人を探しやすい言語かもしれません。

しかし、日本で暮らし、働く外国人の出身国は年々多様になっています。

現在では、ベトナム語、ネパール語、ミャンマー語、ウルドゥー語、シンハラ語など、さまざまな言語への対応が求められています。

さらに、同じ国の出身者であっても、必ずしもその国の公用語を十分に理解できるとは限りません。

少数民族の出身者の場合、日常的に使っている言葉が公用語とは異なることもあります。クルド語をはじめ、地域や民族によって使われる言語や方言にも違いがあります。

「国籍が分かれば、必要な通訳言語も分かる」

このように単純には判断できないのが、現場の難しさです。

急な事件や夜間に通訳人が見つからない

少数言語に対応できる通訳人は、もともとの人数が限られています。

そのため、事件や事故が突然発生しても、すぐに通訳人を確保できるとは限りません。

特に夜間や休日、地方で発生した事件では、対応できる通訳人が見つからず、遠方から来てもらわなければならない場合も考えられます。

一人の通訳人が、複数の警察署や裁判所から依頼を受けることもあるでしょう。

通訳人が見つかるまで事情聴取を進められない、本人への説明が十分にできない、手続きに時間がかかる。
こうした問題は、被疑者や被告人だけの問題ではありません。
捜査機関、裁判所、弁護士、被害者、そして事件の関係者全体に影響します。

通訳が不十分なら、黙秘なのか理解不足なのかも分からない

本人が質問に答えない場合、それが黙秘権を理解したうえでの意思表示なのか、質問の意味が分からないために答えられないのかを見極めなければなりません。

適切な通訳がいなければ、その判断さえ難しくなります。

また、本人が自分に有利な事情を説明しようとしても、細かな意味や感情、時間の前後関係が正しく伝わらなければ、供述の内容が変わってしまう可能性があります。

反対に、捜査側の質問や権利の説明が不正確に伝われば、本人が内容を理解しないまま書類に署名してしまう危険もあります。

言葉が通じないまま捜査を進めることは、冤罪を生む危険だけではありません。

本来明らかにできた事実を確認できず、事件の真相解明が難しくなる可能性もあります。

結果として、処罰すべき事件を十分に立証できないことにもつながりかねません。

少数言語の通訳人が抱える負担

少数言語の通訳人は、人数が少ないからこそ、依頼が一部の人に集中しやすくなります。

長時間の事情聴取、突然の呼び出し、夜間や休日の対応、遠方への移動など、大きな負担がかかります。

事件の内容によっては、暴力、性犯罪、薬物、殺人など、精神的に重い話を長時間聞かなければなりません。

さらに、同じ出身国や民族のコミュニティーが狭い場合、通訳人と事件関係者が顔見知りであったり、共通の知人がいたりする可能性もあります。

通訳人本人や家族の安全、個人情報、事件後の報復や圧力への不安についても考える必要があります。

単に通訳ができる人を探して依頼するだけでは、制度として十分とはいえません。

「話せる人」と「司法通訳ができる人」は違う

ある言語を日常会話で話せることと、司法通訳を正確に行えることは同じではありません。

司法の現場では、逮捕、勾留、黙秘権、供述、証拠、不起訴、起訴、執行猶予など、専門的な言葉が数多く使われます。

一つの言葉の訳し方によって、本人の受け止め方が変わることもあります。

通訳人には、語学力だけでなく、刑事手続きへの理解、中立性、守秘義務、正確性が求められます。

少数言語だからという理由で、十分な研修を受けていない人に頼らざるを得ない状況があるとすれば、早急に改善する必要があります。

AI翻訳だけに任せることはできない

少数言語の不足を補う手段として、AI翻訳や遠隔通訳の活用は必要になるでしょう。

特に、通訳人が到着するまでの緊急的な説明や、簡単な本人確認、使用言語の判定などでは役立つ可能性があります。

しかし、AIが訳した内容をそのまま供述調書や裁判の証拠として扱ってよいのかという問題は残ります。

少数言語や方言では、翻訳精度が十分でない場合もあります。

皮肉、遠回しな表現、文化的な意味、感情、言いよどみなどを、機械が正確に判断できるとは限りません。

AIは通訳人を完全に置き換えるものではなく、人による確認と組み合わせて使用する必要があります。

多言語化する社会には、多言語化した司法が必要

外国人労働者の受け入れを広げるのであれば、働く場所や住居だけでなく、事件や事故が起きた場合の司法体制まで整えなければなりません。

受け入れる人数だけを決め、通訳体制の整備を後回しにすれば、いずれ現場に大きなしわ寄せが生じます。

必要なのは、少数言語の通訳人を全国的に登録する仕組み、適正な報酬、継続的な研修、遠隔通訳体制、通訳人の安全確保です。

また、国籍だけで判断せず、本人が最も正確に理解し、話すことのできる言語を確認する仕組みも必要です。

司法は、使用する言語によって権利や手続きの質が変わってはなりません。

言葉が通じなければ、本人の権利を守ることも、被害者を救済することも、事件の真相にたどり着くことも難しくなります。

外国人との共生社会を進めるのであれば、少数言語の司法通訳人不足は避けて通れない課題です。

受け入れ政策と司法通訳体制は、別々の問題ではありません。

外国人を受け入れるということは、その人たちが関係する可能性のある社会制度全体を整えることでもあるのです。

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