東京にはとんこつラーメンがなかった時代があるのをご存じでしょうか?
私が大学生だった頃、なぜか九州出身の友人が多くいました。大学は神奈川にあり、入学して10日ほど経った時のことです。ある九州出身の友人に、「豚骨ラーメン屋を知ってる?」と尋ねられました。私は「????」という状態で、「豚骨ラーメンとは何ぞや?」と聞き返しました。
すると彼は「え!え!」と驚いた様子で聞き返してきました。今思えば、とてもおかしな場面でした。
私には豚骨ラーメンという存在自体がわからず、一方で彼は「なんで知らないんだ!」と本気で驚いていて、まったく噛み合っていなかったのです。
彼らにとっては一大事だったようで、1978年当時、東京には豚骨ラーメン店がほとんどゼロに近い状況でした。当時、ラーメンといえば醤油、味噌、塩が主流でしたね。
彼らは先輩や知り合いに聞き込みを重ね、やっと東京で唯一営業している豚骨ラーメン店を見つけました。
その店は新宿にあり、名前は「桂花ラーメン」
彼らがどれほど喜んだか、今でも思い出します。
ただ、そのラーメンは熊本ラーメンだったのです。豚骨ラーメンではあるものの、麺は細くなく、マー油(焦がしにんにく油)が特徴的でした。しかし、そんな細かいことは気にせず、彼らは大喜びで、「行こう!行こう!」と笑顔で私を誘い、新宿に向かったのです。
それは46年前の出来事でした。
店の前に着いた瞬間、何とも言えない匂いに驚きました。今でこそ豚骨の匂いには慣れましたが、当時の私にとっては衝撃的で、圧倒されたのを覚えています。
ラーメンには生のキャベツが入っていてびっくり仰天。スープは独特の匂いが強く、麺は生のような食感でした。
それでも友人たちはニコニコしながら、あっという間に完食していました。
一方、私は「二度と行かない」と心に決め、その感想を残して店を後にしました(笑)。
しかし――驚くことに、その2週間後、またあのラーメンが食べたくなってしまったのです。
「お店が流行るとはこういうことなのか」と気づきました。
美味しいからまた行きたくなるのではなく、記憶に残るものが勝つのだと。
それ以来、今でも2か月に一度は桂花ラーメンを訪れています。
学生時代の彼らの笑顔を思い出すために。
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